育成就労制度では、一定の要件の下で、外国人本人の意向による転籍が認められます。受入企業には、転籍に関する制度上の要件を理解するとともに、人材から選ばれ続ける職場環境を整えることが求められます。
本記事では、「育成就労制度運用要領」(令和8年8月改正版)を基に、転籍に関する要件と受入企業の準備事項を整理します。STEP5~7及び金融機関の確認事項には、職場定着や事業継続のための実務上の提案を含みます。これらすべてが法令上の義務となるわけではありません。
転籍には、一定の要件の下で認められる「本人意向による転籍」と、育成就労の継続が困難となった場合等の「やむを得ない事情による転籍」があります。それぞれに適用される要件や手続を区別して確認する必要があります。
本人意向による転籍では、雇用契約の成立に関与した職業紹介や特定募集情報等提供の経路も、育成就労計画の認定審査の対象となります。以下の機関以外による職業紹介や特定募集情報等提供を受けて雇用契約を成立させた場合などは、認定基準を満たしません。
民間事業者との接触がすべて禁止されるという意味ではありません。採用経路について、規則に定める職業紹介等の制限に該当するかを確認する必要があります。
本人意向による転籍では、在籍期間、技能・日本語能力、転籍先の受入割合などの要件を満たし、転籍先で新たな育成就労計画の認定を受ける必要があります。以下の表は主要な確認項目を整理したものです。このほか、転籍先が優良な育成就労実施者であること、職業紹介等の経路や費用分担に関する基準を満たすことなども求められます。
【転籍先の確認】
優良な育成就労実施者であることは、新たな計画の認定申請時と育成就労の開始時の双方で確認が必要です。また、転籍者の受入割合は、本人意向転籍の計画だけでなく、転籍先における新規受入れの計画認定にも関係します。
また、本人意向転籍の計画認定時には、転籍先が法第8条第1項の認定を受けた計画に基づき、現に育成就労外国人を受け入れている必要があります。受け入れている育成就労外国人が、転籍者等のみである場合は、この基準を満たしません。
「やむを得ない事情」による転籍には、本人意向転籍で求められる転籍制限期間や技能・日本語能力の要件は適用されません。ただし、事情の確認や転籍先の新たな育成就労計画の認定、必要な在留手続等は必要です。事情が生じれば直ちに転籍先で就労できるという意味ではありません。
受入企業の倒産や事業の継続が困難となった場合、賃金未払い、暴行・ハラスメント等により育成就労の継続が困難となった場合などは、事情を具体的に確認し、運用要領に照らして判断します。
育成就労の実施が困難となった場合の機構への届出は、単独型では育成就労実施者、監理型では監理支援機関が行います。育成就労実施者及び監理支援機関は、本人が引き続き育成就労を希望するとき、他の実施者や監理支援機関との連絡調整など、転籍に向けた必要な措置を講じなければなりません。
転籍を希望する外国人材に対し、威圧的な言動や不利益な取扱いによって転籍を妨げることは、法令違反や育成就労計画の認定取消しにつながるリスクがあります。受入企業は、本人の意向を確認し、関係法令と所定の手続に沿って対応する必要があります。
「途中で辞めるなら入国時の渡航費用や紹介手数料を全額賠償しろ」といった要求により退職・転籍を妨げる行為や、不当な解雇・給与控除を行ってはなりません。また、離職票の交付に必要な手続や、本人から請求された退職証明書の交付を、正当な理由なく遅らせることも避けなければなりません。パスポートや在留カードを取り上げるなどして、本人の自由な所持を妨げることも禁止されます。
転籍や受験を妨害する行為は、育成就労計画の認定取消しの対象となります。妨害行為が確認された場合に、必ず自動的に取消処分が行われるという意味ではありませんが、受入企業にとって重大な法的リスクです。
育成就労計画の認定が取り消された場合、当該企業に在籍するすべての育成就労外国人について、その企業で育成就労を継続することができなくなります。また、取消しの日から5年間は、新たな育成就労計画の認定を受けられなくなります。
ただし、これは、当該企業が雇用するすべての外国人の在留資格が自動的に失われるという意味ではありません。在籍する育成就労外国人については、監理支援機関の協力を得て、円滑な転籍に向けた対応を行う必要があります。
定着支援では、転籍手続を妨げるのではなく、外国人材が「この会社で働き続けたい」と考える職場環境を整えることが大切です。以下の4つは、職場改善を検討するための実務上の確認視点です。
定着支援の実務上の工夫として、定期的に面談を行い、仕事や生活上の困りごとを確認することを勧めます。特定技能1号への移行に向けた学習・受験の予定や、昇給・評価の考え方も、本人が理解できる言語や方法で説明します。
面談時の要望や相談内容、会社側の対応、改善措置は、日付とともに「相談記録」として残すと、対応の継続や引継ぎに役立ちます。法令に基づく帳簿・記録の作成保存義務は、それぞれの規定に従って別途確認してください。
相談記録は、機構等に対応経過を説明する際にも役立ちます。ただし、記録を作成したことだけで、法令上の義務を履行したことや企業に責任がないことが証明されるわけではありません。個人情報の取扱いや閲覧権限にも配慮します。
職場環境を整えていても、本人の希望や家庭の事情等によって離職・転籍が生じることがあります。人員の変動を想定し、業務を継続できる体制を準備しておくことが、経営上の備えとなります。
特定の人材に業務が集中していないかを点検し、作業手順の標準化、マニュアル整備、担当者間の引継ぎや複数人での対応を進めます。必要に応じて、業務継続計画(BCP)に人員不足時の対応を盛り込みます。
あわせて、監理支援機関等と欠員発生時の対応や採用に必要な期間を確認します。補充採用に当たっても、人数枠、計画認定、在留手続、本人意向転籍の受入条件等を満たす必要があります。
転籍への対応では、受入企業と監理支援機関が役割を確認し、必要に応じて行政書士、社会保険労務士、弁護士等と連携します。金融機関には、人員変動が取引先の事業や資金繰りに及ぼす影響を確認する視点が考えられます。以下には実務上の提案を含みます。
出入国在留管理庁・厚生労働省「育成就労制度運用要領」第4章(令和8年8月改正版/外国人技能実習機構HP掲載)。下記は本文頁番号です。
次回は、第8回「人数枠・優良実施者制度」です。
育成就労制度では、産業分野の受入見込数や実施者の人数枠等を確認する必要があります。次回は、人数枠の考え方、優良実施者の要件、企業が準備すべき事項を整理します。
公表資料に基づく制度の整理、育成就労計画や在留手続に向けた準備についてご相談を承ります。労務・税務等については、必要に応じて各分野の専門家と連携します。
お問い合わせはこちら