第7回転籍制度の要件と選ばれる職場づくり

「辞めさせない」抑圧から、公的要領に準拠した「定着戦略」へ

育成就労制度では、一定の要件の下で、外国人本人の意向による転籍が認められます。受入企業には、転籍に関する制度上の要件を理解するとともに、人材から選ばれ続ける職場環境を整えることが求められます。

本記事では、「育成就労制度運用要領」(令和8年8月改正版)を基に、転籍に関する要件と受入企業の準備事項を整理します。STEP5~7及び金融機関の確認事項には、職場定着や事業継続のための実務上の提案を含みます。これらすべてが法令上の義務となるわけではありません。


今回解説する内容
転籍制度・人数枠・優良実施者制度の解説図
STEP1 転籍制度の基本構造と「本人意向転籍における職業紹介等の制限」

転籍には、一定の要件の下で認められる「本人意向による転籍」と、育成就労の継続が困難となった場合等の「やむを得ない事情による転籍」があります。それぞれに適用される要件や手続を区別して確認する必要があります。

本人意向による転籍では、雇用契約の成立に関与した職業紹介や特定募集情報等提供の経路も、育成就労計画の認定審査の対象となります。以下の機関以外による職業紹介や特定募集情報等提供を受けて雇用契約を成立させた場合などは、認定基準を満たしません。

職業紹介等の制限において認められる機関
  • ハローワーク(公共職業安定所)
  • 外国人育成就労機構
  • 監理支援機関
  • 地方運輸局(運輸監理部を含む)

民間事業者との接触がすべて禁止されるという意味ではありません。採用経路について、規則に定める職業紹介等の制限に該当するかを確認する必要があります。

STEP2 本人意向転籍の主要な要件と転籍先の受入条件

本人意向による転籍では、在籍期間、技能・日本語能力、転籍先の受入割合などの要件を満たし、転籍先で新たな育成就労計画の認定を受ける必要があります。以下の表は主要な確認項目を整理したものです。このほか、転籍先が優良な育成就労実施者であること、職業紹介等の経路や費用分担に関する基準を満たすことなども求められます。

要件分類
運用要領に基づく具体的な基準・数値
実務上の性質
要件分類: ①分野別在籍期間
(制限期間)
具体的な基準: 転籍前の同一企業において、産業分野ごとに定められた1年以上2年以下の範囲内の期間、継続して就労していること。

※分野別の転籍制限期間が1年を超える場合には、所定の待遇向上措置が必要です。受入企業が転籍制限期間を1年とする場合は、その旨を育成就労計画に記載する必要があります。
実務上の性質: 原則として、転籍前後の業務は「同一の業務区分」に限られます。
要件分類: ②技能・日本語
の能力要件
具体的な基準: 技能検定試験基礎級等の技能試験と、日本語能力を確認する試験について、分野別運用方針で定める試験・水準を満たすことが必要です。

※すべての分野で日本語の要件が一律にN5・A1となるわけではありません。
実務上の性質: 育成就労期間が3年を超えて延長されている者は、本人意向による転籍の対象外です。
要件分類: ③転籍先における
転籍者の割合制限
具体的な基準: 原則として、転籍先における算定対象の育成就労外国人数(転籍後)に対し、本人意向による転籍者の割合が「3分の1以内」であることが必要です。

【重要】法令上の指定区域内に住所を有する実施者から、指定区域外に住所を有する実施者への本人意向転籍には、さらに「6分の1以内」の基準が適用されます。法人の住所は本店所在地で判断します。

※転籍先の算定対象人数が5人以下の場合、この「6分の1以内」の基準では、対象となる転籍者1人までが認められます。この場合も、「3分の1以内」という基準は満たす必要があります。

※割合の算定には、やむを得ない事情による転籍者など、規則上の除外対象があります。単純な在籍人数ではなく、所定の算定方法で確認してください。
実務上の性質: 転籍先企業の計画認定に関する受入割合の基準です。新規受入れの計画認定にも関係します。

【転籍先の確認】

優良な育成就労実施者であることは、新たな計画の認定申請時と育成就労の開始時の双方で確認が必要です。また、転籍者の受入割合は、本人意向転籍の計画だけでなく、転籍先における新規受入れの計画認定にも関係します。

また、本人意向転籍の計画認定時には、転籍先が法第8条第1項の認定を受けた計画に基づき、現に育成就労外国人を受け入れている必要があります。受け入れている育成就労外国人が、転籍者等のみである場合は、この基準を満たしません。

STEP3 「やむを得ない事情」による転籍と支援対応

「やむを得ない事情」による転籍には、本人意向転籍で求められる転籍制限期間や技能・日本語能力の要件は適用されません。ただし、事情の確認や転籍先の新たな育成就労計画の認定、必要な在留手続等は必要です。事情が生じれば直ちに転籍先で就労できるという意味ではありません。

受入企業の倒産や事業の継続が困難となった場合、賃金未払い、暴行・ハラスメント等により育成就労の継続が困難となった場合などは、事情を具体的に確認し、運用要領に照らして判断します。

育成就労の実施が困難となった場合の機構への届出は、単独型では育成就労実施者、監理型では監理支援機関が行います。育成就労実施者及び監理支援機関は、本人が引き続き育成就労を希望するとき、他の実施者や監理支援機関との連絡調整など、転籍に向けた必要な措置を講じなければなりません。

STEP4 不当な引留め・転籍妨害行為における重大な違法リスク

転籍を希望する外国人材に対し、威圧的な言動や不利益な取扱いによって転籍を妨げることは、法令違反や育成就労計画の認定取消しにつながるリスクがあります。受入企業は、本人の意向を確認し、関係法令と所定の手続に沿って対応する必要があります。

「途中で辞めるなら入国時の渡航費用や紹介手数料を全額賠償しろ」といった要求により退職・転籍を妨げる行為や、不当な解雇・給与控除を行ってはなりません。また、離職票の交付に必要な手続や、本人から請求された退職証明書の交付を、正当な理由なく遅らせることも避けなければなりません。パスポートや在留カードを取り上げるなどして、本人の自由な所持を妨げることも禁止されます。

行政指導・認定取消しのリスク

転籍や受験を妨害する行為は、育成就労計画の認定取消しの対象となります。妨害行為が確認された場合に、必ず自動的に取消処分が行われるという意味ではありませんが、受入企業にとって重大な法的リスクです。

育成就労計画の認定が取り消された場合、当該企業に在籍するすべての育成就労外国人について、その企業で育成就労を継続することができなくなります。また、取消しの日から5年間は、新たな育成就労計画の認定を受けられなくなります。

ただし、これは、当該企業が雇用するすべての外国人の在留資格が自動的に失われるという意味ではありません。在籍する育成就労外国人については、監理支援機関の協力を得て、円滑な転籍に向けた対応を行う必要があります。

STEP5 人材離職を未然に防ぐ「4つの不満」の早期把握と改善

定着支援では、転籍手続を妨げるのではなく、外国人材が「この会社で働き続けたい」と考える職場環境を整えることが大切です。以下の4つは、職場改善を検討するための実務上の確認視点です。

  1. 処遇(報酬面)の不満: 同等の業務に従事する日本人と同等以上の報酬となっているか。賃金構造基本統計調査などの資料も、待遇を検討する参考として活用しているか。他社の求人条件と比較して、手当や昇給の仕組みに改善の余地はないか。
  2. 人間関係・孤立の不満: 指導員や同僚からハラスメントを受けていないか。言葉や文化の違いから職場で孤立していないか。安心して相談できる相手や窓口があるか。
  3. 生活環境・費用の不満: 寮や社宅の広さ、衛生、プライバシーに問題がないか。住居費・水道光熱費等の負担について、金額や算定根拠を本人に説明しているか。給与からの控除は、関係法令や必要な労使協定等に沿っているか。
  4. キャリア(成長機会)の不満: 育成就労計画に沿った業務や教育を行っているか。日本語学習、技能の習得、試験の受験に向けた支援を行い、特定技能1号への移行に必要な条件を本人と共有しているか。
STEP6 定期面談の仕組み化と「相談記録」の活用

定着支援の実務上の工夫として、定期的に面談を行い、仕事や生活上の困りごとを確認することを勧めます。特定技能1号への移行に向けた学習・受験の予定や、昇給・評価の考え方も、本人が理解できる言語や方法で説明します。

面談時の要望や相談内容、会社側の対応、改善措置は、日付とともに「相談記録」として残すと、対応の継続や引継ぎに役立ちます。法令に基づく帳簿・記録の作成保存義務は、それぞれの規定に従って別途確認してください。

相談記録は、機構等に対応経過を説明する際にも役立ちます。ただし、記録を作成したことだけで、法令上の義務を履行したことや企業に責任がないことが証明されるわけではありません。個人情報の取扱いや閲覧権限にも配慮します。

STEP7 転籍発生を前提とした業務継続計画(BCP)と補充採用計画

職場環境を整えていても、本人の希望や家庭の事情等によって離職・転籍が生じることがあります。人員の変動を想定し、業務を継続できる体制を準備しておくことが、経営上の備えとなります。

特定の人材に業務が集中していないかを点検し、作業手順の標準化、マニュアル整備、担当者間の引継ぎや複数人での対応を進めます。必要に応じて、業務継続計画(BCP)に人員不足時の対応を盛り込みます。

あわせて、監理支援機関等と欠員発生時の対応や採用に必要な期間を確認します。補充採用に当たっても、人数枠、計画認定、在留手続、本人意向転籍の受入条件等を満たす必要があります。

STEP8 外部の伴走3機関(金融機関・行政書士・監理支援機関)が確認すべき視点

転籍への対応では、受入企業と監理支援機関が役割を確認し、必要に応じて行政書士、社会保険労務士、弁護士等と連携します。金融機関には、人員変動が取引先の事業や資金繰りに及ぼす影響を確認する視点が考えられます。以下には実務上の提案を含みます。

金融機関が確認すべきこと(事業性評価・融資審査の視点)
  • 採用・教育に伴う初期費用について、離職や転籍が生じた場合の未回収リスクを事業計画で検討しているか。
  • 人員不足が生産稼働率、売上、納期、キャッシュフローに及ぼす影響を把握しているか。
  • 再採用・教育の費用と、待遇や職場環境の改善に必要な投資を比較し、持続的な事業運営につながる資金計画を検討しているか。
行政書士・監理支援機関が確認すべきこと(制度対応・実務支援の視点)
  • 本人の意向や相談内容を丁寧に確認し、外国人材の権利保護と適正な手続を重視して対応しているか。
  • 転籍先の新たな育成就労計画の認定、転籍元の必要な届出、在留手続に関する書類の整備について、担当者と実施時期を確認しているか。
  • 転籍や受験を妨害する行為が育成就労計画の認定取消しの対象となることを受入企業に説明し、適切な転籍対応を促しているか。
  • 労務手続や紛争対応など、各専門職の業務範囲に応じて、必要な専門家と連携しているか。
STEP9 実務担当者チェックリスト
受入企業の確認事項
  • 本人意向転籍について、分野別の転籍制限期間・試験要件、転籍先の優良要件・受入実績、受入割合と例外、職業紹介等の経路、費用分担に関する基準を確認しているか。
  • やむを得ない事情による転籍を、本人意向転籍とは区別して確認しているか。
  • 処遇、人間関係、住居環境、教育機会を点検し、職場改善を進めているか。
  • 相談内容と会社側の対応を記録し、必要な改善や引継ぎにつなげているか。
  • 人員不足時の業務分担、マニュアル整備、補充採用の方針を準備しているか。
  • 転籍や受験の妨害、旅券・在留カードの取上げ、違約金等による威圧、必要な離職手続の妨害を行っていないか。
金融機関の確認事項
  • 採用・教育の初期費用が未回収となるリスクを、取引先の事業性評価で検討しているか。
  • 転籍等による人員不足が、生産、売上、納期、資金繰りに与える影響を確認しているか。
  • 人材定着に向けた待遇・職場環境の改善と、事業継続に必要な投資を検討しているか。
行政書士・監理支援機関の確認事項
  • 本人の意向を確認し、権利保護と適正な手続を重視して相談に対応しているか。
  • 転籍先の新たな育成就労計画の認定、転籍元の必要な届出及び在留手続について、担当者と対応期限を確認しているか。
  • 不当な引留めや転籍・受験の妨害を防ぐため、受入企業に制度とリスクを説明しているか。
  • 労務・紛争等の問題について、必要な専門家と連携する体制があるか。
主な一次資料・確認箇所

出入国在留管理庁・厚生労働省「育成就労制度運用要領」第4章(令和8年8月改正版/外国人技能実習機構HP掲載)。下記は本文頁番号です。

  • 本人意向転籍の期間・能力要件:4-197~4-199頁
  • 転籍先の受入実績・割合・優良要件・紹介経路・費用関係:4-199~4-204頁
  • 実施困難時の届出・転籍支援:4-2頁(法第19条・第33条・第51条)
  • 認定取消しとその効果:4-263~4-264頁(法第16条・第10条第7号)

育成就労制度運用要領 第4章(一次資料PDF)

次回は、第8回「人数枠・優良実施者制度」です。

育成就労制度では、産業分野の受入見込数や実施者の人数枠等を確認する必要があります。次回は、人数枠の考え方、優良実施者の要件、企業が準備すべき事項を整理します。

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