第7回では転籍制度の法的要件と選ばれる職場づくりを解説しました。第8回では、企業の事業計画や人員配置の前提となる「受入人数枠」の算定法と、適正運用を行う企業にインセンティブを付与する「優良実施者制度」について、申請実務の観点から解説します。
育成就労制度では、外国人材を無制限に受け入れることはできません。受入人数枠は、常勤職員数を基準とする「基本人数枠」を上限とし、さらに特定産業分野ごとの「分野別総量規制(上乗せ規制)」によって二重に制限されるため、事前の正確なリーガルチェックが不可欠です。
今回解説する内容
STEP1 受入人数枠の基本構造と総量規制
育成就労制度における受入上限は、受入企業の「常勤職員数」に連動する形で基本人数枠が厳格に定められています。適正な実務指導および監査体制を維持できる規模に応じた枠設定となっており、この総量規制を上回る受入計画は一律に拒絶されます。
常勤職員数
運用要領に基づく基本人数枠
実務上のポイント
常勤職員数
1人
運用要領に基づく基本人数枠
3人
実務上のポイント
創業間もない企業でも育成就労制度を利用できます。
常勤職員数
2人
運用要領に基づく基本人数枠
6人
実務上のポイント
少人数企業でも受入れを拡大できます。
常勤職員数
3~30人
運用要領に基づく基本人数枠
9人
実務上のポイント
多くの中小企業はこの区分に該当します。まずは9人を基準に採用計画を立てましょう。
常勤職員数
31~40人
運用要領に基づく基本人数枠
12人
実務上のポイント
常勤職員数の増加に応じて受入枠も段階的に拡大します。
常勤職員数
41~50人
運用要領に基づく基本人数枠
15人
実務上のポイント
人員計画と育成計画を一体的に管理することが重要です。
常勤職員数
51~100人
運用要領に基づく基本人数枠
18人
実務上のポイント
教育・指導体制を含めた受入体制の整備が求められます。
常勤職員数
101~200人
運用要領に基づく基本人数枠
30人
実務上のポイント
大幅に受入可能人数が増えるため、管理体制の充実が重要になります。
常勤職員数
201~300人
運用要領に基づく基本人数枠
45人
実務上のポイント
優良実施者認定も見据えた長期的な制度運用が望まれます。
常勤職員数
301人以上
運用要領に基づく基本人数枠
常勤職員数の15%
実務上のポイント
大企業は割合管理となるため、毎年の職員数変動にも注意が必要です。
出典:育成就労制度運用要領(令和8年4月改正版)第4章「受入人数枠」に基づき作成。
【重要:分野別上乗せ規制に関するリーガル警告】
上記は全分野共通の「基本人数枠」ですが、建設分野や介護分野などの特定産業分野においては、主務省令・告示により「受入外国人の総数が常勤職員数を超えてはならない(100%以下規制)」等のより厳格な分野別総量規制(上乗せ規制)が課されています。基本枠の範囲内であっても分野別告示に違反した場合は計画が不認定となるため、必ず自社の特定産業分野固有の要件を併せて精査する必要があります。
STEP2 常勤職員数の法的定義とカウントミス防止
人数枠の算定根拠となる「常勤職員数」は、単なる在籍名簿上の人数ではなく、**雇用保険の被保険者資格の有無および労働実態(週所定労働時間等)**を基準に厳格に判断されます。この算定を誤ると、育成就労計画の申請段階で枠超過が発覚し、不認定処分や計画の遅延を招く重大なコンプライアンス違反となります。
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雇用保険・社会保険の加入実態: 原則として雇用保険の一般被保険者であり、かつ社会保険(健康保険・厚生年金)の適用要件を満たすフルタイム労働者を基準とします。
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既存の外国人材の控除・算定: 先行して受け入れている技能実習生、既存の育成就労外国人、特定技能1号外国人などは、常勤職員数の「分子(受入人数)」としてカウントされる一方、分母の「常勤職員数」からは除外されるケースが多いため、制度間の重複カウントに細心の注意を要します。
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役員・短時間労働者の除外規定: 法人役員やパート・アルバイト等の短時間労働者は、労働契約書、出勤簿、賃金台帳の3点セットを照合し、常勤職員の定義に完全に合致しない限り、算定の基礎に含めることはできません。
STEP3 優良実施者制度の概要とインセンティブ
優良実施者制度は、単なる法令遵守にとどまらず、適正なキャリア形成(育成体制)、人権配慮に根差した相談支援、適正な労務管理、および外国人材の定着率において**「特に優れた実績を有する」と主務大臣が認定した企業**を優遇する仕組みです。
認定を受けることで、受入枠の割増(緩和)措置が適用されるだけでなく、企業としての社会的信用力の向上、採用競争力での圧倒的優位性、地域金融機関からのESG融資等の評価獲得、監理支援機関との強固な信頼関係など、中長期的な経営メリットをもたらします。
行政書士が解説する実務の要諦
優良認定は「申請直前に帳簿を整える」といった表面的な対応では決して通過しません。日頃からの教育実施記録、定期面談記録、法定帳簿類の厳格な整備と、離職・失踪を防ぐ定着戦略を並行して機能させ続ける継続的ガバナンスが問われます。
STEP4 優良認定における厳格な評価指標
優良実施者認定は点数制(スコアリング方式)を採用しており、以下の評価項目について客観的な疎明資料の提出が求められます。
主な評価指標と確認対象
- 技能・日本語目標の達成率: 技能評価試験(初級等)の合格率および日本語能力(A1・A2水準等)の計画通りの習得状況。
- 労働法令の厳格遵守: 労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法等の違反がないこと。特に36協定の遵守と時間外労働の適正管理。
- 相談・生活支援体制: 母国語による相談体制の確保、メンタルヘルスケアへの配慮、地域社会との共生支援実態。
- 適正な記録管理: 計画に基づく指導要領の記録、面談簿、外国人向け周知文書等の適切な保管状況。
- 失踪・不当転籍の抑制: 受入企業側に起因する失踪や、不当な労働環境を理由とする転籍・離職の発生割合が基準値以下であること。
STEP5 無理な人員計画が引き起こす財務・経営リスク
事前の枠算定を怠り、または「優良認定が取れるだろう」という楽観的観測に基づいて、上限を超える海外面接や内定出しを進める行為は致命的な経営リスクを生みます。
入国直前での計画不認定や、既存職員の離職にともなう枠縮小が発生した場合、調達にかかった**採用費、渡航準備費用、住居確保に伴う敷金・礼金等の埋没費用(サンクコスト)**がすべて無駄になります。また、期待していた労働力が現場に配置されないことによる生産ラインの停止、納期遅延、信用失墜は、ダイレクトに売上および資金繰りを悪化させる原因となります。
STEP6 金融機関・行政書士・監理支援機関が確認すべき多角的視点
金融機関が確認すべきこと(事業継続性・融資判断)
- 融資先企業が提示する増員・設備投資計画が、制度上の受入人数枠の範囲内に完全に収まっているか。
- 計画において「優良認定による受入枠緩和」を織り込んでいる場合、その認可確率の根拠は客観的に妥当か(行政書士の意見書等はあるか)。
- 採用遅延や不認定が発生した場合に備え、予備の資金繰り耐性(手元流動性)が確保されているか。
行政書士(申請取次・特定)・監理支援機関が確認すべきこと(適法性担保)
- 賃金台帳、雇用保険被保険者名簿をクロスチェックし、常勤職員数の正確なリーガルチェックを行っているか。
- 主務省令・特定産業分野別の告示における最新の上乗せ総量規制との適合性を検証しているか。
- 虚偽の職員数算定による申請は、育成就労計画の認定取消や改善命令等の行政処分、最悪の場合は刑罰(不法就労助長罪等)に繋がるリスクを受入企業に明示し、適切な指導を行っているか。
STEP7 実務担当者チェックリスト
受入企業:コンプライアンス&計画策定
- 直近の雇用保険・社会保険の加入実績から、算定基準に適合する正確な「常勤職員数」を導き出しているか。
- 自社の属する特定産業分野に固有の上乗せ総量規制(介護・建設等の制限)を確認・クリアしているか。
- 増員計画に対し、法定の指導・育成体制および適切な住居確保体制が比例して整備されているか。
- 優良実施者認定を目指す場合、教育記録や面談簿が日常的に適正管理されているか。
金融機関:与信・事業性評価
- 取引先が提示する中期人員配置計画が、法的な人数枠上限を超えていないか。
- 優良認定に伴う緩和措置を見込んだ財務モデルを構築している場合、不認定時の代替シナリオが用意されているか。
- 外国人材の採用費や住居確保費、教育コスト等の必要資金が事業計画に網羅されているか。
行政書士・監理支援機関:リーガル・監査
- 雇用保険被保険者名簿および直近の出勤簿から、常勤職員数の客観的妥当性を監査・確認したか。
- 受入企業の計画数が基本人数枠および分野別告示の双方に適合していることを確認したか。
- 優良認定の獲得に向け、受入企業内の不備(日本語教育体制、労務管理、法定帳簿類の遅延等)に対する是正措置の指導を行ったか。
次回は、第9回「送出機関の適正化と送出費用(送出機関と送出費用)」です。
育成就労制度を安全に運用するためには、海外の送出機関を適切に選定し、不透明な送出費用や不適切な手数料徴収を排除することが重要です。次回は、送出機関の適正化、送出費用の透明化、受入企業が契約前に確認すべき実務ポイントを整理します。
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