第9回送出機関の適正化と送出費用

採用の入口から不当な債務・保証金・違約金を排除し、透明な国際採用ルートを構築する

第9回 送出機関の適正化と送出費用|育成就労制度実務ガイド

育成就労制度実務ガイド 第9回

送出機関の適正化と送出費用

採用の入口から不当な債務・保証金・違約金を排除し、透明な国際採用ルートを構築する

第8回では、人数枠と優良実施者制度を取り上げました。第9回では、育成就労外国人の採用入口となる外国の送出機関、送出しに要する費用、二国間の協力覚書(MOC)、保証金・違約金、旅券等の保管禁止その他の人権保護について整理します。

送出し段階で過大な費用負担や借金が生じると、来日後の生活困窮、早期離職、失踪、不当な就労継続圧力などにつながりかねません。受入企業、監理支援機関および行政書士は、日本国内の手続だけでなく、採用ルート全体の適法性と透明性を確認する必要があります。


今回解説する内容

適正送出機関制度

認定状況、契約主体、実績、費用構造および苦情対応を確認します。

保証金・違約金問題

名目を問わず、外国人本人や親族に不当な負担が課されていないかを確認します。

送出費用負担ルール

送出しの過程で本人が支払う費用の総額、内訳、支払先および証憑を把握します。

MOCの仕組み

送出国政府による認定・取消しと、日本側との情報共有の枠組みを確認します。

国際法務上の留意点

現地法、契約書、言語、紛争処理、再委託先を含む採用経路を点検します。

重大な禁止行為

旅券等の保管、不当な私生活制限、強制、違約金その他の人権侵害を防止します。

相談体制の整備

本人が理解できる言語で、送出し前から来日後まで相談・申告できる体制を整えます。

法令違反リスクへの対応

契約解除、是正、報告、証拠保全および再発防止の手順を事前に定めます。

STEP1 適正な送出機関を選ぶための基本構造

監理型育成就労では、外国の送出機関が候補者の募集、選抜、事前教育、渡航準備等に関与します。監理支援機関は、送出機関との契約内容を確認し、送出しの過程に不当な費用徴収、人権侵害、再委託先による不透明な仲介等がないよう管理する必要があります。

実務上の基本

「政府認定機関である」という一点だけで適正性が保証されるわけではありません。認定の有効性、実際の契約当事者、現地の募集代理人・教育機関・ブローカーの関与、費用明細、返金条件、相談対応および過去の問題事例まで確認することが重要です。

  • 認定・登録状況:送出国政府による認定・登録の有無、有効期間、取消し・停止歴を確認する。
  • 契約経路:監理支援機関と契約する法人と、実際に募集・教育・徴収を行う主体が一致しているか確認する。
  • 費用の透明性:本人が負担する費用について、費目、金額、支払先、支払時期、返金条件および領収証の発行を確認する。
  • 人権保護:保証金、違約金、旅券の取上げ、外出制限、妊娠・結婚制限等を行っていないことを確認する。

STEP2 送出費用の上限と「一切の費用」の把握

育成就労外国人が送出機関に支払った費用については、育成就労計画に記載された報酬月額の2倍を超えないことが基準とされています。ここでいう費用は、名称ではなく実質で判断され、送出しの過程で本人が送出機関に支払った一切の費用が対象です。

確認区分 主な費目例 実務上の確認事項
確認区分募集・紹介 主な費目例送出手数料、職業紹介費 実務上の確認事項徴収主体、契約根拠、領収証、現地法上の上限の確認。
確認区分教育・試験 主な費目例日本語講習、職業訓練、技能・資格検定費 実務上の確認事項教育内容、時間数、実施主体、実費との整合性の確認。
確認区分健康・保険 主な費目例健康診断、医療費、保険費 実務上の確認事項重複加入、不要な商品、過大な上乗せの有無の確認。
確認区分移動・渡航 主な費目例国内移動費、宿泊費、渡航費 実務上の確認事項実際の旅程、実費、誰が負担する契約かの照合。
確認区分行政手続等 主な費目例旅券・査証申請費用、一般管理費 実務上の確認事項公的手数料と代行報酬を区分し、包括名目による不透明な徴収を排除。
送出機関以外への支払いにも注意

本人が送出機関へ直接支払っていなくても、送出機関と実質的に一体となって活動する教育機関、募集代理人その他の関係者への支払いが、送出機関への支払いと同視される場合があります。費用確認は、送出しルート全体を対象に行う必要があります。

STEP3 保証金・違約金・借金による拘束を排除する

育成就労に係る契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額を予定したりする契約は認められません。保証金の徴収も、名称を変えた預り金、担保、家族保証、財産管理等を含め、実質により判断されます。

【重要】送出機関との契約にも違約金条項を置かない

監理支援機関が送出機関に対して違約金等を設定すると、送出機関がその負担を外国人本人や親族へ転嫁し、保証金や高額手数料を徴収するおそれがあります。本人との直接契約でなくても、育成就労外国人の保護に反する契約は避けなければなりません。

  • 途中帰国、転籍、失踪、試験不合格等を理由とする定額の違約金がないか。
  • 親族の土地・建物・預金等を担保に取っていないか。
  • 高利の借入れをあっせんし、給与から返済させる仕組みになっていないか。
  • 「研修費」「教育保証金」「デポジット」等の名称で実質的な保証金を徴収していないか。

STEP4 MOC(二国間協力覚書)の役割と限界

日本政府と送出国政府との間で締結される協力覚書(MOC)は、適正な送出機関の認定、認定取消し等の通知、不適切な機関に関する情報共有および調査対応などの枠組みを定めるものです。

MOC確認の実務ポイント

  • 対象国について育成就労制度に関するMOCが締結されているか。
  • 送出国政府が公表する認定送出機関リストに掲載されているか。
  • 認定取消し、停止、名称変更、合併等の最新情報が反映されているか。
  • 日本側または送出国側への通報・照会ルートを把握しているか。

※MOCの有無や内容、認定送出機関の公表状況は国ごとに異なり、今後更新される可能性があります。契約時点の最新情報を必ず確認してください。

STEP5 国際契約・現地法務で見落としやすい事項

送出機関との契約は、日本法だけで完結しません。送出国の職業紹介規制、手数料上限、個人情報保護、教育機関の許認可、紛争解決、準拠法、翻訳の正確性等を確認する必要があります。

契約書に最低限盛り込むべき確認事項

  • 募集、選抜、教育、費用徴収を行う主体と再委託の範囲
  • 本人が負担する費用の内訳、上限、支払方法、領収証および返金条件
  • 保証金・違約金・財産管理・旅券保管を行わない旨
  • 苦情・相談・通報の受付方法と調査協力義務
  • 認定取消し、重大違反、虚偽説明等が判明した場合の解除・引継ぎ
  • 個人情報の利用目的、第三者提供、越境移転および保管期間

STEP6 旅券等の保管と私生活制限は同意があっても禁止

育成就労実施者、監理支援機関その他の育成就労関係者が、育成就労外国人の旅券または在留カードを保管することは、本人の同意の有無や理由にかかわらず禁止されています。また、携帯電話の取上げ、合理的理由のない一律の門限、外出・交際・妊娠等の不当な制限も認められません。

「紛失防止のため預かる」も不可

会社の金庫で保管する、本人の依頼書を取る、コピーを渡すといった運用でも、原本を関係者が保管することはできません。本人が自ら安全に管理できるよう、鍵付き保管場所の案内など、保管以外の支援方法を採る必要があります。

STEP7 送出し前から機能する相談・申告体制

不当な費用徴収や保証金契約は、来日前に発生することが多いため、入国後の相談窓口だけでは不十分です。候補者が送出機関を介さずに相談できる手段を確保し、相談したことを理由とする不利益取扱いを防止する必要があります。

相談体制の設計例
  • 候補者が理解できる言語による費用説明書・禁止事項チェックシート
  • 監理支援機関への直接相談メール、電話、オンライン面談
  • 送出機関担当者が同席しない本人確認面談
  • 支払明細・領収証・借入契約書等を安全に提出できる仕組み
  • 問題発覚時の募集停止、調査、契約解除、代替送出ルートの手順

STEP8 受入企業・金融機関・行政書士・監理支援機関の確認視点

受入企業:採用責任と定着リスク

  • 採用候補者が負担した費用総額と借入れの有無を本人面談で確認しているか。
  • 送出機関の説明だけでなく、本人の説明および証憑と照合しているか。
  • 高額債務が生活、定着、転籍判断に与える影響を把握しているか。
  • 不適切な送出しが判明した場合に採用を強行しない意思決定基準があるか。

金融機関:事業性評価・コンプライアンス

  • 採用費用の内訳、送出機関への支払額および本人負担額が透明化されているか。
  • 高額な仲介費、キックバック、簿外支出等が資金使途に含まれていないか。
  • 不適切な採用ルートがレピュテーション、操業、資金繰りに与える影響を検討しているか。

行政書士・監理支援機関:適法性と証拠化

  • 送出機関の認定、公表リスト、契約主体、再委託先を確認したか。
  • 本人負担費用の総額が基準内であることを資料により確認したか。
  • 保証金・違約金・財産管理・旅券保管等がないことを本人から直接確認したか。
  • 契約書、費用明細、領収証、面談記録、翻訳文を保存しているか。
  • 違反の疑いがある場合の是正、通報、契約解除および候補者保護の手順を整備したか。

STEP9 実務担当者チェックリスト

送出機関の適正性

  • 送出国政府の認定・登録および有効期間を確認した。
  • 取消し・停止歴、苦情、過去の問題事例を確認した。
  • 募集代理人、教育機関、ブローカー等の再委託先を把握した。

送出費用と本人負担

  • 本人が支払った一切の費用を一覧化した。
  • 費用総額、報酬月額との関係、現地法上の上限を確認した。
  • 領収証、契約書、借入書類、返金条件を確認した。
  • 本人への直接面談により説明内容を照合した。

禁止行為・人権保護

  • 保証金、違約金、損害賠償予定、担保提供がないことを確認した。
  • 旅券・在留カードの保管、外出・通信・交際等の不当な制限がないことを確認した。
  • 本人が理解できる言語で相談・申告できる窓口を案内した。
  • 違反判明時の募集停止、証拠保全、是正および報告手順を定めた。
実務上、海外における募集・教育等の実態を日本側だけで完全に把握することは容易ではありません。そのため、MOCに基づく認定送出機関の利用に加え、契約書類の確認、本人面談、費用明細の確認、苦情対応体制の確認など、確認可能な資料・手続を通じてリスクを低減することが重要です。

次回は、第10回「コンプライアンスと禁止行為」です。

次回は、暴力・脅迫・監禁等による就労の強制、保証金・違約金、旅券等の保管、私生活の不当な制限、申告を理由とする不利益取扱いなど、育成就労制度における重大な禁止行為と、企業内部の統制・通報・是正体制を整理します。

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