第9回では、送出機関の適正化、送出費用、保証金・違約金、MOCおよび国際採用ルートの透明性を解説しました。第10回では、育成就労の強制、違約金等、旅券・在留カードの保管、私生活の不当な制限、申告を理由とする不利益取扱いなど、育成就労外国人の保護に直結する禁止行為を整理します。
禁止行為は、現場責任者や寮管理担当者の独断から発生することがあります。受入企業は、就業規則・寮規則、研修、相談窓口、監査、記録保存および初動対応を一体として整備し、組織的に予防することが重要です。
暴行、脅迫、監禁その他の手段により、本人の意思に反して育成就労を強制する行為を防止します。
違約金、損害賠償額の予定、保証金その他の財産管理を排除します。
旅券・在留カードは、本人の同意の有無や保管理由にかかわらず、関係者が保管できません。
外出・通信・交際など、私生活の自由を不当に制限する運用を防止します。
法令違反を行政機関へ申告する権利と、申告を理由とする不利益取扱いの禁止を周知します。
本人が理解できる言語で、直属上司を介さず相談できる経路を整備します。
違反の疑いを把握した際の安全確保、事実確認、必要な報告、是正および記録保存を標準化します。
行政処分、労務紛争、刑事事件、操業・採用計画および信用への影響を管理します。
育成就労制度の禁止行為は、単なる社内ルール違反ではありません。育成就労法上の禁止規定に加え、行為の内容によっては労働関係法令や刑事法令上の問題となる可能性があります。
本人の同意があれば常に適法となるわけではありません。他方で、安全管理や共同生活上の合理的なルールまで直ちに禁止されるものでもありません。目的、必要性、方法、期間および本人の自由意思への影響を具体的に確認する必要があります。
| 禁止行為の類型 | 具体例 | 主な予防策 |
|---|---|---|
| 禁止行為の類型就労の強制 | 具体例暴行、脅迫、監禁その他自由を不当に拘束する手段による強制 | 主な予防策現場研修、相談経路、管理職への明確な禁止通知、定期面談 |
| 禁止行為の類型違約金・財産管理 | 具体例違約金、損害賠償額の予定、保証金、本人の財産の管理 | 主な予防策契約書・誓約書・給与控除・預り金運用の事前確認 |
| 禁止行為の類型旅券等の保管 | 具体例旅券または在留カードを会社・監理支援機関等が保管 | 主な予防策原本は本人管理、必要な写しの利用目的・保管方法の明確化 |
| 禁止行為の類型私生活の制限 | 具体例外出・通信・交際等の自由を不当に制限する運用 | 主な予防策寮規則の点検、ルールの目的・必要性・範囲の限定 |
| 禁止行為の類型申告への報復 | 具体例申告を理由とする育成就労の中止その他の不利益取扱い | 主な予防策申告制度と報復禁止の周知、秘密保持、独立した相談経路 |
暴行、脅迫、監禁その他精神または身体の自由を不当に拘束する手段により、育成就労を強制することは禁止されています。明白な暴力だけでなく、旅券等を取り上げて退去を困難にするなど、本人が拒否・離脱できない状態をつくる行為にも注意が必要です。
適法な業務命令や注意指導まで禁止されるものではありません。しかし、暴力、威嚇、監禁、退去妨害その他の不当な手段によって本人の意思決定を奪うことは許されません。
育成就労に係る契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約は認められません。また、保証金の徴収その他育成就労外国人の財産を管理する行為も禁止されています。
育成就労実施者、監理支援機関その他の育成就労関係者が、育成就労外国人の旅券または在留カードを保管することは禁止されています。この禁止は、本人の同意の有無や保管の理由に左右されません。
会社の金庫、事務所、監理支援機関または寮管理者が原本を預かり続ける運用はできません。行政手続等で一時的に原本の提示・提出が必要な場合は、目的と期間を限定し、手続終了後に速やかに本人へ返却する運用を徹底します。
育成就労関係者は、育成就労外国人の外出その他の私生活の自由を不当に制限してはなりません。安全・衛生・近隣配慮のための合理的な共同生活ルールと、本人の自由を過度に制約する規則を区別する必要があります。
| 場面 | 問題となりやすい例 | 適正化の視点 |
|---|---|---|
| 場面外出・門限 | 問題となりやすい例休日を含む一律の外出禁止、必要性を説明できない厳格な門限 | 適正化の視点目的、必要性、時間帯、対象および代替手段を検討する。 |
| 場面通信・私物 | 問題となりやすい例携帯電話その他の私物を本人の意思に反して取り上げる | 適正化の視点私物は本人管理を原則とし、必要な支援は取上げ以外の方法で行う。 |
| 場面交際・妊娠 | 問題となりやすい例交際・婚姻・妊娠等に関する包括的な禁止や誓約 | 適正化の視点人格・私生活に過度に介入する規則を設けない。 |
| 場面居室の監視 | 問題となりやすい例居室等の私的空間を撮影する監視設備 | 適正化の視点防犯目的でも設置場所・撮影範囲・保存方法を必要最小限にする。 |
育成就労実施者や監理支援機関等に育成就労法令違反の事実がある場合、育成就労外国人は、出入国在留管理庁長官および厚生労働大臣に申告できます。また、その申告をしたことを理由として、育成就労の中止その他の不利益な取扱いをすることは禁止されています。
相談窓口は設置するだけでなく、本人が理解できる言語で利用でき、相談したことが直属上司や行為者へ不用意に伝わらないよう設計することが重要です。
相談窓口は、本人の権利を守り、問題を早期発見・是正するための仕組みです。外部への相談や行政機関への申告を思いとどまらせるために利用してはなりません。
違反の疑いがある場合は、本人の安全を最優先にし、証拠を保全した上で、事実関係と法的評価を区別して確認します。必要な届出・報告の有無は、具体的な事案と最新の法令・運用要領に基づいて判断します。
申告撤回の要求、帰国の強要、証拠の削除、相談者への報復等は、新たな違反や人権侵害につながります。聞き取りは秘密保持と報復防止に配慮して行います。
次回は、第11回「帳簿管理と届出実務(帳簿・届出・検査対応)」です。
次回は、育成就労実施者および監理支援機関が備え付ける帳簿、変更・終了等に関する届出、監査や実地検査に備えた証拠書類の保存方法について整理します。
育成就労計画、雇用契約、誓約書、寮規則、相談窓口、監査記録および行政手続上の対応について、申請取次行政書士・特定行政書士の立場から、適正な制度運用を支援します。
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