【第6回】行政庁の弁明にどう対応する?

【第6回】特定行政書士が解説

行政庁の弁明にどう対応する?

弁明書・反論書・口頭意見陳述の実務

審査請求書を提出すると、 その後、処分庁等から 「弁明書」 が提出されます。

弁明書には、 処分庁側が、 なぜその処分を行ったのかという 法的・事実的な説明が記載されます。

処分庁は、どの法令を根拠としているのか。
どの事実を認定しているのか。
審査請求書の主張にどう答えているのか。
新しい事実や資料が示されていないか。
どこに反論すべきなのか。

第6回では、 弁明書を読む際のポイント、 反論書の組み立て方、 さらに口頭意見陳述の活用方法を解説します。

弁明書とは何か

行政不服審査法第29条では、 審理員は原則として、 処分庁等に対して相当の期間を定め、 弁明書の提出を求めることとされています。

処分についての審査請求の場合、 弁明書には、 処分の内容および理由 が記載されます。

処分庁等から弁明書が提出されると、 審理員はこれを審査請求人および参加人へ送付します。

弁明書は「行政庁からの回答書」以上の意味を持ちます。

審査請求書でこちらが示した問題点について、 処分庁側がどのような法令解釈・事実認定・評価をしているのかを 確認する重要な資料です。

弁明書が届いたら、まず何を見るのか

① 根拠法令 審査請求書で想定していた法令と同じか。
② 処分理由 不許可通知書の理由と整合しているか。
③ 事実認定 処分庁は何を事実として認定しているか。
④ 証拠・資料 どの資料を判断の根拠としているか。
⑤ 審査基準 どの基準を、どのように適用しているか。
⑥ 審査請求人への反論 こちらのどの主張に答え、どの主張に答えていないか。

不許可通知書と弁明書を比較する

実務上、非常に重要なのが、 不許可通知書に記載された理由と、 弁明書に記載された理由を比較すること です。

両者を見比べることで、 処分庁が当初どのような理由で処分し、 審査請求後にどのような説明をしているのかが見えてきます。

注意したい状態

不許可通知書では 「要件Aを満たさない」 とされていたのに、 弁明書では別の要件Bや新たな事実が 判断理由として前面に出ている。

確認すべきこと

当初の処分理由と弁明書の説明が どのような関係にあるのかを整理し、 その点が審査上どのような意味を持つのかを検討します。

理由が追加されているように見えるからといって、 直ちに違法と断定することはできません。

処分の性質、 当初の理由提示、 弁明書の内容、 根拠法令などを踏まえて個別に検討する必要があります。

「反論書」とは何か

行政不服審査法第30条第1項では、 審査請求人は、 弁明書に記載された事項に対する反論を記載した 「反論書」 を提出することができると定めています。

審理員が反論書を提出すべき相当の期間を定めた場合には、 その期間内に提出しなければなりません。

反論書は、審査請求書をもう一度書くための文書ではありません。

弁明書によって明らかになった 処分庁側の主張・事実認定・証拠評価に対して、 必要な点を具体的に反論する文書です。

反論書は「弁明 → 問題点 → 証拠 → 反論」で整理する

弁明

処分庁は何を主張しているのかを正確に整理します。

争点

その主張のどこが問題なのかを特定します。

事実

審査請求人側から見た事実関係を整理します。

証拠

その事実を裏付ける資料を示します。

評価

法令・審査基準に照らして、なぜ処分庁の説明に問題があるのかを示します。

結論

その争点について、審査庁にどのような判断を求めるのかを明確にします。

具体例で見る反論書の組み立て

架空事例:処分庁が「必要資料が提出されていない」と弁明した場合
① 処分庁の弁明

「要件Aを確認するための資料が提出されていなかったため、 当該要件を満たさないと判断した。」

② 審査請求人の確認

申請時に資料Xを提出し、 さらに補正時には資料Yも提出していた。

③ 証拠

資料1:申請書控え
資料2:資料Xの提出記録
資料3:補正提出書
資料4:行政庁からの受付メール

④ 反論の方向

「資料が提出されていない」という事実認定が、 上記提出記録と整合しているかを具体的に指摘します。

反論書で避けたい書き方

感情的な反論

「行政は申請者の話を全く聞いていません。 このような対応は到底納得できません。」

争点を示した反論

「弁明書は資料Xが提出されていないとするが、 ○月○日の受付記録および提出書控えから、 同資料が提出済みであることが確認できる。」

感情を持つこと自体は当然ですが、 反論書では、 争点・事実・証拠を分けて記載する ことが重要です。

弁明書の根拠資料も確認する

弁明書の内容を検討する際には、 処分庁側が提出した資料も重要になります。

行政不服審査法第38条では、 審査請求人または参加人は、 審理手続が終結するまでの間、 法律上対象となる提出書類等について、 閲覧または写し等の交付を求めることができます。

  • 処分庁はどの資料を提出しているか
  • 弁明書の主張と提出資料は一致しているか
  • 自分が提出した資料がどのように扱われているか
  • 事実認定の前提となった資料は何か
  • こちらの認識と異なる資料や記録がないか
閲覧・交付には法律上の要件があり、 すべての資料を無条件に確認できるわけではありません。

口頭意見陳述とは

書面だけでなく、口頭で意見を述べる機会

行政不服審査法第31条では、 審査請求人または参加人から申立てがあった場合、 原則として、 審理員は申立人に 口頭で事件に関する意見を述べる機会 を与えなければならないとされています。

口頭意見陳述は、 単に審査請求書や反論書を読み上げる場ではありません。

書面では伝わりにくい争点や、 事実関係の重要な部分を整理して説明する機会として 活用することが考えられます。

口頭意見陳述では何を話すか

口頭意見陳述では、 すべての経緯を最初から説明するより、 審査上重要な争点を絞る ことが重要です。

  • 最も重要な争点は何か
  • 処分庁との事実認識の違いはどこか
  • どの証拠が重要なのか
  • 弁明書のどの点に問題があるのか
  • 審査庁に理解してほしい核心は何か
「話せるだけ話す」よりも、 「何を理解してもらうか」を先に決めておく。

これが口頭意見陳述を準備するうえで重要です。
特定行政書士やすもとの視点

弁明書が届いたら

「反論する」前に
「相手の論理」を正確に分解します

弁明書を読むと、 すぐに 「ここは違う」 「この説明はおかしい」 と反論したくなるかもしれません。

しかし、私ならまず、 処分庁の論理を次のように分解します。

  • どの法令を根拠としているか
  • どの審査基準を使っているか
  • どの事実を認定しているか
  • 何の資料を根拠としているか
  • そこからどのような評価をしているか
  • こちらの主張のどこに反論しているか

そのうえで、 「法令が違うのか」 「事実認定が違うのか」 「証拠評価が違うのか」 「当てはめが違うのか」 を整理します。

反論は、相手の文章ではなく、 相手の論理に対して行う。

これが、 弁明書に対応するときの重要なポイントです。

次回予告

第7回
営業停止・許可取消しによる重大な不利益に備える

審査請求をしても、 原則として処分の効力や執行は自動的には停止しません。

次回は、 営業停止や許可取消しなどにより 重大な損害が生じるおそれがある場合に検討する 「執行停止」 の要件と実務を解説します。

法的根拠(第6回の主な条文)

行政不服審査法第29条
弁明書の提出
行政不服審査法第30条
反論書等の提出
行政不服審査法第31条
口頭意見陳述
行政不服審査法第32条
証拠書類等の提出
行政不服審査法第38条
審査請求人等による提出書類等の閲覧等
行政不服審査法施行令第6条
弁明書の提出方法
行政不服審査法施行令第7条
反論書等の提出方法
行政不服審査法施行令第8条
映像等の送受信による通話の方法による口頭意見陳述等