【第7回】特定行政書士が解説
営業停止・許可取消しによる
重大な不利益に備える
執行停止申立ての要件と実務
営業停止や許可取消しなどの処分を受け、 その処分について審査請求をしたとします。
では、審査請求をした時点で、 その処分の効力や執行は止まるのでしょうか。
原則として、止まりません。
行政不服審査法第25条第1項は、 審査請求をしても、 処分の効力、処分の執行または 手続の続行を妨げないと定めています。
そこで、処分によって重大な損害が生じるおそれがある場合に 検討する制度が 「執行停止」です。
執行停止では何を止めることができるのか。
「重大な損害」とは何か。
「緊急の必要」はどのように説明するのか。
申立てではどのような資料を準備すべきなのか。
第7回では、 行政不服審査法第25条・第26条を中心に、 執行停止の仕組みと実務上の確認ポイントを解説します。
審査請求をしても処分は自動的に止まらない
行政不服審査法では、 審査請求がされたことだけを理由として、 処分の効力や執行を自動的に停止する仕組みにはなっていません。
これを一般に 「執行不停止の原則」 と呼びます。
例えば、営業停止処分を受けた場合
営業停止処分について審査請求をしたからといって、 それだけで営業停止処分の効力等が止まるわけではありません。
審査請求の審理が続いている間に、 処分による不利益が現実化する可能性があります。
処分の内容、効力発生日、個別法の規定、 執行停止の有無を個別に確認する必要があります。
執行停止では何を止めるのか
行政不服審査法第25条は、 事件の内容に応じて、 処分に関する一定の停止措置を定めています。
処分の効力の停止
処分そのものの法的効力について 停止が問題となるものです。
処分の執行の停止
処分に基づいて行われる執行について 停止が問題となります。
手続の続行の停止
処分に続く行政上の手続について その続行の停止が問題となります。
また、行政不服審査法第25条第6項は、 処分の効力を停止しなくても 他の措置によって目的を達成できる場合には、 処分の効力の停止をすることができないとしています。
執行停止には二つの考え方がある
行政不服審査法第25条では、 執行停止について、 大きく二つの場面を区別して理解すると分かりやすくなります。
審査庁の立場に応じて手続は異なりますが、 法律は、 「必要があると認める場合」 に執行停止を行うことができる仕組みを設けています。
処分庁の上級行政庁または処分庁である審査庁の場合には、 審査請求人の申立てだけでなく、 職権による執行停止も法律上可能です。
審査請求人から執行停止の申立てがあり、
と認められる場合には、 原則として審査庁は執行停止をしなければなりません。
ただし、次の場合は例外です。
・本案について理由がないとみえるとき
「重大な損害」は何を見て判断するのか
「重大な損害」という言葉だけを見ると、 どの程度の損害なのか分かりにくいかもしれません。
行政不服審査法第25条第5項は、 重大な損害が生じるかを判断するときに、 次の事情を考慮・勘案すると定めています。
損害がどのように発生し、 どの程度の影響となり、 後から回復することがどの程度困難なのかを 具体的事情と資料によって説明することが重要です。
具体例で考える「重大な損害」と「緊急の必要」
・既存契約への影響
・取引先との契約解除の可能性
・従業員への影響
・顧客への影響
・営業再開後に回復可能な損害か
・処分を停止する緊急性
このように、 「営業停止だから重大な損害がある」 と抽象的に主張するのではなく、
処分 → 具体的な影響 → 損害 → 回復困難性 → 緊急性
という流れで整理することが重要です。
執行停止申立てでは「数字」と「資料」を準備する
重大な損害や緊急の必要を説明するときには、 抽象的な主張だけでなく、 客観的な資料による裏付けが重要になります。
これが執行停止申立ての準備では重要になります。
執行停止申立ての基本的な流れ
処分内容を確認
何が、いつから、どのような効力を生じる処分なのかを確認します。
審査請求
対象となる処分について審査請求を行います。
執行停止を申し立てる
審査庁に対し、 処分による損害・緊急性等を整理して申立てを行います。
根拠資料を提出
損害の性質・程度・回復困難性・緊急性を裏付ける資料を整理します。
審査庁の判断
執行停止の申立てがあった場合、 審査庁は速やかに執行停止をするかどうかを決定します。
執行停止は「本案の勝敗」と同じではない
執行停止の申立てと、 審査請求本体の判断は区別して考える必要があります。
執行停止は、 審査請求について最終的な裁決が出るまでの間に、 処分による重大な損害等が生じることを防ぐための制度です。
反対に、執行停止の可否と、 審査請求本体の違法・不当の判断とは 分けて検討する必要があります。
執行停止が後から取り消されることもある
行政不服審査法第26条は、 執行停止をした後であっても、
- 執行停止が公共の福祉に重大な影響を及ぼすことが明らかになった場合
- その他、事情が変更した場合
には、審査庁が執行停止を取り消すことができると定めています。
したがって、 執行停止が一度認められたとしても、 その後の事情によっては取消しがあり得ます。
審理員から執行停止を求める意見が出る場合もある
行政不服審査法第40条では、 審理員が必要があると認めた場合、 審査庁に対して、 執行停止をすべき旨の意見書 を提出することができると定めています。
また、第25条第7項は、 執行停止の申立てがあった場合だけでなく、 審理員からこの意見書が提出された場合にも、 審査庁は速やかに 執行停止をするかどうかを決定しなければならないとしています。
行政不服審査法の中に、 要件・判断要素・手続が定められた 正式な制度です。
営業停止・許可取消しを受けたら
「審査請求に勝てるか」だけでなく
「裁決まで事業が持つか」を考えます
営業停止や許可取消しなど、 事業の継続に直接影響する処分では、 審査請求の内容だけを検討していては 間に合わない場合があります。
私なら、処分通知を確認した段階で、 審査請求の検討と並行して、
- 処分はいつから効力を生じるのか
- 営業できなくなる期間はどの程度か
- 既存契約にどのような影響が出るのか
- 従業員・取引先・顧客への影響は何か
- 損害は後から回復できる性質なのか
- 今すぐ停止しなければならない緊急性があるか
- それを裏付ける客観的資料があるか
を確認します。
審査請求で処分を争っていても、 裁決が出る前に営業停止期間が終わり、 取引先や顧客を失ってしまえば、 後から完全に元の状態へ戻すことが難しい場合があります。
だからこそ、
「処分は正しいのか」という本案の検討と、 「裁決までの間に何を守る必要があるのか」という 執行停止の検討を分けて考える。
これが、 事業者の権利利益を守るうえで重要な視点です。
第8回
不利益処分にどう備えるか
営業停止や許可取消しなどの不利益処分では、 処分を受けた後だけでなく、 処分が行われる前の手続 も重要です。
次回は、 行政手続法上の処分基準、 理由提示、 聴聞・弁明の機会と、 行政裁量の限界について解説します。
法的根拠(第7回の主な条文)
- 行政不服審査法第25条第1項
- 審査請求によって処分の効力・執行・手続の続行は 原則として妨げられないこと
- 行政不服審査法第25条第2項・第3項
- 審査庁による執行停止
- 行政不服審査法第25条第4項
- 重大な損害を避けるため緊急の必要がある場合の執行停止
- 行政不服審査法第25条第5項
- 重大な損害を判断する際の考慮要素
- 行政不服審査法第25条第6項
- 処分の効力の停止と他の停止措置との関係
- 行政不服審査法第25条第7項
- 執行停止申立て等に対する速やかな決定
- 行政不服審査法第26条
- 執行停止の取消し
- 行政不服審査法第40条
- 審理員による執行停止をすべき旨の意見書