【第8回】特定行政書士が解説
不利益処分にどう備えるか
行政裁量の限界と聴聞・弁明の機会の活用
営業停止や許可取消しなどの不利益処分については、 処分を受けた後の審査請求だけでなく、 処分が行われる前の手続 も重要です。
行政手続法は、 不利益処分を行う際の処分基準、 意見陳述の機会、 理由提示などについて定めています。
処分前に意見を述べる機会はあるのか。
「聴聞」と「弁明の機会」は何が違うのか。
行政庁に裁量があれば、どのような判断でも許されるのか。
処分前に事業者は何を準備すべきなのか。
第8回では、 行政手続法第12条から第14条、 聴聞手続および弁明の機会を中心に、 不利益処分へ備えるための実務を整理します。
「不利益処分」とは
行政手続法上の不利益処分とは、 行政庁が法令に基づき、 特定の者を名宛人として、 直接その者に義務を課したり、 権利を制限したりする処分をいいます。
事業者に関係しやすい例
- 許可や免許などの取消し
- 営業停止・業務停止
- 一定の改善命令・是正命令
- 登録取消し
- その他、法令に基づき義務や制限を課す処分
ただし、 個々の行政上の対応が行政手続法上の 「不利益処分」に該当するかどうかは、 根拠法令や処分の内容を確認する必要があります。
まず確認したい「処分基準」
行政手続法第12条では、 行政庁は、 不利益処分をするかどうか、 またはどのような不利益処分をするかについての 「処分基準」 を定め、公にしておくよう努めなければならないとしています。
また、処分基準を定める場合には、 不利益処分の性質に照らして、 できる限り具体的なものとしなければなりません。
不利益処分の前には意見を述べる手続がある
行政手続法第13条では、 行政庁が不利益処分をしようとする場合、 原則として、 名宛人となる者に対して 意見陳述のための手続をとることとしています。
その代表的な制度が、 「聴聞」 と 「弁明の機会の付与」 です。
聴聞
許認可等の取消しなど、 法律上より重大な不利益処分に対して 行われる手続です。
期日が設けられ、 当事者が意見を述べ、 証拠書類等を提出することができます。
弁明の機会
聴聞に該当しない一定の不利益処分について 行われる意見陳述手続です。
原則として、 弁明書を提出する方式で行われます。
許可取消しなどでは「聴聞」が重要
行政手続法第13条は、 許認可等を取り消す不利益処分をしようとする場合などに、 聴聞を行うことを定めています。
聴聞では、 単に行政庁の説明を聞くだけではありません。
- 不利益処分の原因となる事実を確認する
- 行政庁がどの法令・処分基準を適用しているか確認する
- 事実認定に誤りがないか確認する
- 自社の意見を述べる
- 必要な証拠書類等を提出する
つまり、 処分が確定する前に、 行政庁の前提となっている事実や評価について 意見を述べる重要な機会 です。
聴聞の通知が届いたら最初に確認すること
行政手続法第15条では、 聴聞を行う場合、 行政庁から書面による通知が行われます。
通知が届いたら、 次の事項を整理します。
- 予定されている不利益処分の内容
- 根拠となる法令
- 処分原因となる事実
- 聴聞の期日
- 聴聞が行われる場所や方法
- 準備できる証拠資料
聴聞通知は、 行政庁が不利益処分を具体的に検討している段階であることを意味します。 この時点から事実関係と証拠を整理する必要があります。
「弁明の機会」は書面が原則
行政手続法第29条では、 弁明は、 行政庁が口頭ですることを認めた場合を除き、 弁明書を提出して行う とされています。
また、弁明をする際には、 証拠書類等を提出することができます。
弁明書で整理したいこと
- 行政庁が認定している事実は何か
- その認定に誤りはないか
- 事業者側の事実認識はどうか
- その事実を裏付ける証拠は何か
- 処分基準への当てはめに問題はないか
不利益処分には「理由提示」が必要
行政手続法第14条は、 行政庁が不利益処分をする場合、 原則としてその名宛人に対し、 同時に処分の理由を示さなければならない と定めています。
したがって、 営業停止や許可取消しなどの処分が行われた後は、 処分通知書に示された理由を確認します。
処分理由は、 単に根拠条文だけを示せばよいとは限らず、 処分を受けた者が、 なぜその処分を受けたのかを理解できることが重要になります。
行政裁量にも限界がある
許認可行政では、 法律が行政庁に一定の裁量を認めている場合があります。
しかし、 「裁量がある=行政庁が自由に決められる」 という意味ではありません。
行政庁の判断については、 根拠法令、 処分基準、 認定事実、 判断過程などを踏まえ、 裁量権の範囲を逸脱し、 またはその権限を濫用したものではないかが問題となることがあります。
どの法令がどの範囲の裁量を認めているのか、 どの事実を前提にどのような判断がされたのかを 個別に検討する必要があります。
処分前に準備しておきたい資料
- 行政庁から届いた通知書
- 根拠法令・処分基準
- 許認可申請時の書類一式
- 行政庁とのメール・面談記録
- 指摘事項への改善状況が分かる資料
- 事実認定に反論するための客観的資料
- 過去の報告・届出・提出資料
特に重要なのは、 行政庁が問題としている事実と、 事業者側が把握している事実を分けて整理すること です。
処分前手続から審査請求までを一つの流れで考える
処分基準を確認
どのような場合に処分が行われ得るのかを確認します。
聴聞・弁明の通知
行政庁が問題としている事実・処分内容を確認します。
事実と証拠を整理
反論すべき事実と、その裏付け資料を整理します。
意見陳述
聴聞または弁明の機会を活用して意見を示します。
不利益処分
処分が行われた場合には、理由提示を確認します。
必要に応じて審査請求
処分の違法・不当を検討し、不服申立てにつなげます。
不利益処分の通知が来たら
「処分された後に争う」だけでなく
「処分前に何を伝えるか」を考えます
行政不服申立ては、 行政処分を受けた後の重要な権利救済制度です。
しかし、 営業停止や許可取消しなどの不利益処分では、 処分が行われる前に 聴聞や弁明の機会が設けられることがあります。
私なら、 この段階でまず、
- 行政庁は何を問題としているのか
- 根拠法令・処分基準は何か
- 行政庁の認定事実は何か
- 事実認定に誤りはないか
- 改善済みの事項はないか
- それを裏付ける証拠は何か
- 予定される処分と事実との関係は妥当か
を整理します。
処分が行われてから 「実はこういう事情がありました」 と説明するよりも、 処分前の段階で客観的な資料とともに 意見を示すことが重要な場合があります。
「処分後の救済」だけでなく、 「処分前の手続」を活用する。
これが、 不利益処分に備えるうえで重要な視点です。
第9回
行政不服申立てと行政訴訟
行政処分に納得できない場合、 行政不服申立てだけでなく、 行政訴訟という司法上の救済制度もあります。
次回は、 審査請求と行政訴訟の違い、 制度選択の考え方、 審査請求前置主義、 代理人となれる資格の違いを整理します。
法的根拠(第8回の主な条文)
- 行政手続法第12条
- 不利益処分に関する処分基準
- 行政手続法第13条
- 不利益処分をしようとする場合の意見陳述手続
- 行政手続法第14条
- 不利益処分の理由提示
- 行政手続法第15条以下
- 聴聞手続
- 行政手続法第29条以下
- 弁明の機会の付与
- 行政書士法第1条の4第1項第3号・同条第2項
- 行政書士法で認められた範囲における 聴聞または弁明の機会の付与その他の意見陳述手続の代理等