FE-06では不法就労助長罪、
FE-07では外国人雇用状況届出を整理しました。
では、外国人を適法に雇用したあと、
労働条件や労務管理については、
日本人社員とは別のルールが適用されるのでしょうか。
結論から言えば、
日本国内で就労する外国人にも、
原則として日本人と同様に労働関係法令が適用されます。
ただし、外国人雇用では、
日本語理解・文化・制度理解の違いを踏まえて、
労働条件や安全衛生について
「本人が理解できる方法で説明する」
という実務上の配慮が重要になります。
1.原則|外国人にも日本の労働法が適用される
外国人労働者であっても、
日本国内で働く以上、
原則として日本の労働関係法令が適用されます。
労働基準法
賃金、労働時間、休憩、休日、解雇等の基本ルール。
最低賃金法
地域別・特定最低賃金等が適用されます。
労働安全衛生法
安全衛生教育、健康診断等が適用されます。
労災保険
業務上・通勤上の災害について、国籍を問わず適用関係を判断します。
雇用保険
適用要件を満たす外国人労働者には必要な手続を行います。
健康保険・厚生年金
適用事業所・被保険者要件に従い加入手続を行います。
「外国人だから労働法の保護が弱くなる」
ということはありません。
在留資格のルールと、
労働法のルールは別に考える必要があります。
2.国籍を理由に労働条件を差別してはいけない
労働基準法第3条は、
使用者が労働者の
国籍・信条・社会的身分
を理由として、
賃金、労働時間その他の労働条件について
差別的取扱いをすることを禁止しています。
例えば、
「外国人だから日本人より低い賃金にする」
「外国人だから休暇を少なくする」
「外国人だから残業代を払わない」
といった取扱いは認められません。
※職務内容、能力、経験、責任等の合理的な差に基づく待遇差まで
一律に禁止されるという意味ではありません。
重要なのは「国籍そのもの」を理由とする差別的取扱いをしないことです。
3.最低賃金も外国人に適用される
外国人労働者にも最低賃金法が適用されます。
「外国人だから最低賃金より安くてもよい」
というルールはありません。
在留資格、国籍、日本語能力等を理由に、
最低賃金を下回る賃金を設定することはできません。
また、特定技能・育成就労など、
制度上別途報酬要件が定められている場合には、
最低賃金法だけでなく、
その在留・受入制度上の報酬要件も併せて確認
する必要があります。
4.労働時間・休憩・休日のルールも同じ
外国人労働者にも、
法定労働時間、休憩、休日、時間外労働等に関する
労働基準法のルールが適用されます。
労働時間
原則として1日8時間・週40時間の法定労働時間を基準に管理します。
休憩・休日
法定の休憩・休日を確保します。
時間外・休日労働
必要な36協定や割増賃金等のルールを遵守します。
在留資格上働くことができる時間と、
労働基準法上の労働時間規制は別の問題です。
例えば留学生の資格外活動許可には就労時間の上限があります。
その上限を守れば、
労働基準法を無視してよいという意味ではありません。
5.労働条件は「本人が理解できる形」で説明する
外国人労働者にも、
労働条件を適切に明示する必要があります。
外国人雇用管理指針では、
外国人労働者が理解できるよう、
労働条件等について必要な配慮を行うことが求められています。
STEP 1
労働条件通知
STEP 2
内容を説明
STEP 3
理解度を確認
STEP 4
疑問点を解消
STEP 5
記録・保存
実務では、
・やさしい日本語
・母国語資料
・多言語のモデル労働条件通知書
・通訳
・図解
などを活用し、
本人が主要な労働条件を理解できるようにすることが重要です。
6.「日本語の契約書にサインしたから理解した」とは限らない
外国人労働者が日本語の雇用契約書に署名していたとしても、
実際に内容を理解していたかは別の問題です。
特に説明しておきたい項目
・基本給
・残業代
・各種手当
・税金、社会保険料等の控除
・労働時間
・休日
・勤務地
・担当業務
・契約期間
・更新の有無
・退職・解雇に関する事項
「手取り額」と「額面賃金」の違いなどは、
外国人雇用で誤解が起こりやすいポイントです。
7.安全衛生教育は「理解できる方法」で行う
外国人労働者にも、
労働安全衛生法等に基づく安全衛生教育が必要です。
厚生労働省は、
外国人労働者への安全衛生教育について、
母国語等や視聴覚教材を使用するなど、
本人が確実に理解できる方法で行うこと
を示しています。
機械・設備
機械、安全装置、保護具等の使用方法を理解できるようにする。
危険・有害業務
危険性、有害性、正しい取扱方法を理解させる。
標識・掲示
図解や母国語の注意喚起等を活用する。
理解度確認
教育しただけで終わらず、理解できているか確認する。
安全衛生教育では、
「日本語で説明した」という事実より、
「本人が理解できたか」が重要です。
8.労災保険も国籍だけで除外されない
外国人労働者であっても、
労災保険の適用を受ける労働者であれば、
業務上・通勤上の災害について保険給付の対象となります。
「外国人だから労災を使えない」
という取扱いは誤りです。
また、在留資格上の問題があることと、
労働災害に対する保護の問題は、
同一ではありません。
9.社会保険も「外国人だから任意」ではない
健康保険、厚生年金、雇用保険等についても、
国籍だけを理由に加入対象から外すことはできません。
それぞれの法律上の適用要件に該当する場合には、
必要な加入手続を行います。
「外国人本人が加入したくないと言っている」
だけでは、
法律上必要な加入手続を省略できません。
外国人本人には、
保険料だけでなく、
傷病手当金、年金、失業等給付など
制度の内容について説明することも重要です。
10.旅券・在留カードを会社が預かり続けない
外国人雇用管理指針では、
事業主は外国人労働者の
旅券等を保管しないようにすること
が示されています。
本人確認のために提示を受けることと、
会社が原本を継続的に預かることは別です。
在留カード等の写しを社内管理する場合にも、
利用目的・アクセス権限・保存期間等を定め、
個人情報として適切に管理する必要があります。
11.解雇・退職も日本人と同じく労働法のルールがある
外国人だからという理由だけで、
自由に解雇できるわけではありません。
解雇については、
労働基準法・労働契約法等のルールが適用されます。
ただし外国人の場合には、
退職・解雇後の在留資格や所属機関関係の届出等が
別途問題となる場合があります。
つまり、
労働法上の退職・解雇
と
入管法上の在留管理
は、
分けて確認する必要があります。
12.外国人雇用で起きやすい5つの誤解
| よくある誤解 |
正しい考え方 |
|
外国人だから最低賃金より安くてよい
|
誤り。外国人にも最低賃金法が適用されます。
|
|
外国人には残業代を払わなくてよい
|
誤り。労働基準法の割増賃金ルールが適用されます。
|
|
日本語の契約書に署名すれば説明は十分
|
外国人本人が主要な労働条件を理解できるよう配慮することが重要です。
|
|
外国人は社会保険に入りたくなければ入らなくてよい
|
誤り。各制度の適用要件に該当すれば必要な加入手続を行います。
|
|
外国人だから労災は使えない
|
誤り。国籍のみを理由に労災保険の対象外にはなりません。
|
13.では「日本人と違う」のはどこか
ここまで見ると、
外国人に適用される労働法そのものは、
基本的には日本人と同じです。
では、外国人雇用特有の実務はどこにあるのでしょうか。
在留資格
担当業務に従事できる在留資格か確認する。
在留期間
在留期間の満了日・更新状況を管理する。
外国人雇用状況届出
雇入れ・離職時に必要な届出を行う。
資格外活動
留学生等では許可内容・時間制限を確認する。
言語面
労働条件・安全衛生等を理解できる方法で伝える。
文化・制度理解
日本の労働慣行を当然の前提にせず、必要な説明を行う。
つまり、
「労働法が外国人だけ特別に違う」のではなく、
日本の労働法
+
入管・在留管理
+
理解を確保するための実務的配慮
が外国人雇用では必要になる、
と考えると分かりやすくなります。
14.企業向けチェックリスト
□ 国籍で待遇を決めていないか
国籍そのものを理由とした差別的取扱いをしていない。
□ 最低賃金を確認したか
適用される最低賃金以上の賃金を設定している。
□ 労働時間を適正管理しているか
法定労働時間、休憩、休日、時間外労働等を適切に管理している。
□ 労働条件を理解できる形で説明したか
必要に応じ、やさしい日本語、多言語資料等を活用した。
□ 安全衛生教育を理解できる方法で行ったか
母国語、図解、動画等を必要に応じて活用した。
□ 社会保険等の適用を確認したか
本人の希望だけでなく法令上の要件で判断した。
□ 旅券等を預かり続けていないか
本人確認と原本の継続保管を混同していない。
□ 労働法と入管法を分けて確認したか
雇用管理と在留資格管理の双方を確認している。
15.FE-08のまとめ|「同じルール+必要な配慮」が基本
外国人にも、日本人と同様に労働関係法令が適用される
↓
国籍を理由とする差別的取扱いはしない
↓
最低賃金・労働時間・安全衛生・社会保険等を適正に管理する
↓
労働条件・安全衛生は本人が理解できる方法で伝える
↓
在留資格・入管手続は労働法とは別に確認する
外国人雇用で大切なのは、
「外国人だから特別扱いすること」ではありません。
日本人と同じ法令を適正に適用しながら、
言語や制度理解の違いを踏まえて
必要な説明・配慮を行うこと
です。
16.主な法的根拠・公的確認先
基準日:2026年9月7日
本ページは、
労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、
外国人雇用管理指針、厚生労働省公表資料等を基に、
外国人雇用の企業実務の観点から整理しています。
実際の労務管理では、
雇用形態、労働時間、勤務場所、在留資格、
社会保険の適用関係等に応じて個別確認が必要です。