【第9回】特定行政書士が解説
行政不服申立てと行政訴訟
それぞれの役割と選択のポイント
不許可、営業停止、許可取消しなどの行政処分について、 その判断に疑問がある場合、 権利救済の方法は行政不服申立てだけではありません。
裁判所に対して処分の取消しなどを求める 「行政訴訟」 という司法上の救済制度もあります。
必ず審査請求をしてから裁判をするのか。
審査請求中でも訴訟を提起できるのか。
審査請求で認められなかったら、それで終わりなのか。
特定行政書士と弁護士の役割はどこで分かれるのか。
第9回では、 行政不服申立てと行政訴訟の基本的な違いを整理し、 事業者が権利救済を考える際に 知っておきたい制度選択のポイントを解説します。
行政訴訟の具体的な訴訟活動や訴訟書類作成を 特定行政書士の業務として解説するものではありません。
行政不服申立てと行政訴訟は別の制度
行政不服申立てと行政訴訟は、 どちらも行政処分に対する権利救済に関係する制度ですが、 同じものではありません。
大きな違いは、 「誰が判断するのか」 です。
| 比較項目 | 行政不服申立て | 行政訴訟 |
|---|---|---|
| 判断する機関 | 行政庁 | 裁判所 |
| 主な制度 | 審査請求など | 取消訴訟など |
| 基本となる法律 | 行政不服審査法等 | 行政事件訴訟法等 |
| 審査の対象 | 違法な処分に加え、 「不当」な処分も対象となり得る | 裁判所による司法審査として、 処分の違法性が問題となる |
| 代理人 | 法律で認められた範囲において 特定行政書士が代理できる場合がある | 特定行政書士は訴訟代理人にはなれない。 訴訟代理は原則として弁護士の業務 |
行政庁による不服審査と、 裁判所による司法審査は、 それぞれ別の制度として設けられています。
行政不服申立てでは「違法」だけでなく「不当」も問題になる
行政不服審査法第1条は、 行政庁の 「違法又は不当」 な処分その他公権力の行使について、 不服申立ての制度を設けています。
つまり、 法令違反という意味での「違法」だけではなく、 行政上の判断として妥当性を欠くという 「不当」についても審査対象となり得ます。
一方、行政訴訟では、 裁判所が行政処分の 違法性 を司法審査します。
行政事件訴訟法第30条は、 行政庁の裁量処分について、 裁量権の範囲を超え、 またはその濫用があった場合には、 裁判所が処分を取り消すことができると定めています。
処分の根拠法令、行政庁に認められた裁量の範囲、 事実認定、判断過程などを 個別に検討する必要があります。
審査請求をしなければ行政訴訟を起こせないのか
ここは非常に誤解されやすいポイントです。
行政事件訴訟法第8条第1項は、 処分について法令上審査請求をすることができる場合でも、 処分取消しの訴えを直ちに提起することを妨げないと定めています。
これが、 一般に 「審査請求前置」 と呼ばれる場合です。
したがって、 「行政処分を争う場合は、 必ず先に審査請求をしなければならない」 という一般ルールではありません。
審査請求前置の場合でも例外がある
個別法で審査請求前置が定められている場合でも、 行政事件訴訟法第8条第2項は、 一定の場合には裁決を待たずに 取消訴訟を提起できるとしています。
主な例外
- 審査請求をした日から3か月を経過しても裁決がないとき
- 処分等による著しい損害を避けるため 緊急の必要があるとき
- その他、 裁決を経ないことについて正当な理由があるとき
審査請求前置の有無、 例外要件への該当性、 出訴期間など、 行政訴訟に関する判断が必要になる場合には、 弁護士への相談を検討することが重要です。
審査請求をしている間でも訴訟を検討できる
審査請求前置が法律上要求されていない場合には、 審査請求を行っているというだけで 当然に取消訴訟を提起できなくなるわけではありません。
つまり、 「審査請求を選んだら、 裁決が出るまで絶対に裁判へ進めない」 という一般ルールではありません。
ただし、 どの手続をどの時点で利用するのかは、 処分の内容、 個別法、 期間制限、 求める救済などを踏まえて検討する必要があります。
「期限」はそれぞれ別に確認する
行政不服申立てと取消訴訟には、 それぞれ法律上の期間制限があります。
審査請求
原則3か月
原則として、 処分があったことを知った日の翌日から3か月以内。
さらに、 処分があった日の翌日から1年という期間もあります。
取消訴訟
原則6か月
原則として、 処分または裁決があったことを知った日から6か月。
また、 処分または裁決の日から1年という期間があります。
行政事件訴訟法第14条第3項には、 審査請求をした場合の取消訴訟の出訴期間について 特別な規定も置かれています。
実際の起算点や個別法の特則を含め、 それぞれの期間を個別に確認する必要があります。
訴訟を起こしても処分は自動的に止まらない
第7回では、 審査請求をしても原則として 処分の効力や執行が自動的に止まらないことを解説しました。
行政訴訟についても同様に、 取消訴訟を提起しただけでは、 原則として処分の効力・執行・手続の続行は止まりません。
行政訴訟にも「執行停止」の制度がある
行政事件訴訟法第25条は、 一定の要件のもとで、 裁判所が申立てにより 執行停止をする制度を定めています。
申立先も判断主体も異なるため、 両者を混同しないことが重要です。
審査請求で認められなかったら、それで終わりなのか
審査請求の結果、 審査請求人の主張が認められず、 棄却裁決となることがあります。
しかし、 それだけで当然に 司法上の救済の可能性まで失われるという意味ではありません。
行政処分
不許可、営業停止、許可取消しなどの処分を受けます。
審査請求
違法・不当な処分であると考える場合、 行政不服申立てを検討します。
裁決
審査庁による判断が示されます。
必要に応じて司法救済を検討
なお処分等の違法性を争う必要がある場合には、 出訴期間等に注意しつつ、 弁護士への相談を含めて行政訴訟を検討することになります。
訴訟要件、 処分の違法性、 証拠、 期間制限、 事業者が求める解決などを踏まえて 個別に判断する必要があります。
特定行政書士と弁護士の役割を明確に分ける
特定行政書士
行政書士法で認められた範囲において、 行政庁に対する審査請求、 再調査の請求、 再審査請求等の不服申立手続を 代理することができます。
弁護士
行政訴訟を含む訴訟事件について、 法律上認められた範囲で 訴訟代理その他の法律事務を取り扱います。
また、 行政訴訟の訴訟書類作成を 行政書士業務として当然に取り扱えるものでもありません。
したがって、 行政不服申立ての段階であっても、 将来的に行政訴訟へ移行する可能性が高い事案では、 早い段階から弁護士との連携を検討することが重要です。
「どちらが優れているか」ではなく、目的から考える
行政不服申立てと行政訴訟を比較すると、 「どちらを選んだ方が有利なのか」 と考えたくなるかもしれません。
しかし、 単純に優劣をつける制度ではありません。
- 対象となる処分は何か
- 違法だけでなく不当の問題があるのか
- 審査請求前置の規定があるか
- 何を最終的に求めているのか
- 処分による損害が現在進行しているか
- 審査請求・訴訟それぞれの期限はいつか
- どのような証拠があるか
- 弁護士との連携を早期に検討すべき事案か
こうした事情を整理したうえで、 適切な権利救済手段を検討することが重要です。
行政処分に疑問があるとき
「審査請求で解決すること」だけを
ゴールにしない
特定行政書士として行政不服申立てを扱う場合、 もちろん審査請求の中で 適切な主張・立証を行うことは重要です。
しかし、 私がもう一つ重要だと考えているのは、 「この事案の最終的な出口はどこなのか」 を意識することです。
審査請求の中で解決を図ることが適切な事案もあれば、 処分の性質や争点によっては、 早い段階から行政訴訟の可能性を視野に入れ、 弁護士との連携を検討した方がよい場合もあります。
そのため私は、
- 何を争っているのか
- 違法の問題か、不当の問題か
- どのような救済を求めているのか
- 審査請求前置があるか
- 行政訴訟の出訴期間はどうなるか
- 訴訟へ移行する可能性はあるか
- 弁護士との連携が必要な段階ではないか
を意識します。
自分の資格でできるところまで抱えることが 依頼者の利益とは限りません。
特定行政書士として対応できる範囲を正確に見極め、 必要な場面では適切に弁護士へつなぐ。
それも、 事業者の権利利益を守るための 専門家として重要な役割だと考えています。
【最終回・第10回】
不許可リスクを減らすために
ここまで、 不許可通知書の読み方、 審査請求期間、 審査請求書、 弁明書・反論書、 執行停止、 聴聞・弁明、 そして行政訴訟との違いを見てきました。
最終回では、 時間を一度「申請前」に戻します。
そもそも不許可や許可取消しなどのリスクを できるだけ減らすために、 事業者と特定行政書士は何ができるのか。
申請前の確認、 審査基準の把握、 証拠資料の整備、 行政庁とのやり取りの記録など、 全10回の総まとめとして 「予防的な行政実務」を整理します。
法的根拠(第9回の主な条文)
- 行政不服審査法第1条
- 違法または不当な処分等に対する 不服申立制度の目的
- 行政事件訴訟法第2条・第3条
- 行政事件訴訟および抗告訴訟・取消訴訟等
- 行政事件訴訟法第8条
- 処分取消しの訴えと審査請求との関係、 審査請求前置とその例外
- 行政事件訴訟法第14条
- 取消訴訟の出訴期間
- 行政事件訴訟法第25条
- 取消訴訟における執行不停止の原則と執行停止
- 行政事件訴訟法第30条
- 裁量処分の取消し
- 行政書士法第1条の4第1項第2号・同条第2項
- 特定行政書士による、 法律で認められた範囲の行政不服申立手続の代理等
- 弁護士法第72条
- 非弁護士による法律事務の取扱い等の禁止と、 他の法律に別段の定めがある場合の例外