【第10回】不許可リスクを減らすために(最終回)

全10回・最終回

【第10回】特定行政書士が解説

不許可リスクを減らすために

申請前から始める「予防的実務支援」

全10回でお届けしてきた 「行政不服申立て実務ガイド」も、 今回が最終回です。

これまで、 不許可通知書が届いた後の確認、 審査請求、 主張・証拠の組み立て、 弁明書への反論、 執行停止、 聴聞・弁明の機会、 そして行政訴訟との関係まで見てきました。

しかし最後に、 時間を一度 「申請前」 まで戻してみたいと思います。

不許可になった後にどう争うか。
それと同じくらい重要なのが、
「不許可リスクをできるだけ減らすために、 申請前に何をするか」です。

行政不服申立ては重要な権利救済制度です。 しかし、事業者にとって望ましいのは、 可能な限り適切な準備をしたうえで申請し、 そもそも不許可や重大な不利益処分に至るリスクを 減らしておくことです。

「書類がそろった」だけで申請しない

許認可申請では、 必要書類をそろえることは当然重要です。

しかし、 「必要書類が全部ある」 ことと 「許可要件を満たしている」 ことは同じではありません。

申請前には、 根拠法令だけでなく、 審査基準、必要書類、 申請者側の事実関係などを確認し、 許認可の要件との適合性を検討する必要があります。

行政手続法第5条では、 行政庁は審査基準を定め、 許認可等の性質に照らして できる限り具体的なものとし、 行政上特別の支障がある場合を除いて 公にしておかなければならないとされています。

申請前に確認したい5つのポイント

不許可リスクを考える際には、 少なくとも次の5点を整理しておきたいところです。

CHECK 1

根拠法令

その許認可がどの法律・政省令・条例等に基づき、 どのような要件を定めているのかを確認します。

CHECK 2

審査基準

行政庁が許認可等をするかどうかを 判断するための審査基準を確認します。

CHECK 3

事実関係

申請者自身の状況が要件に適合しているのか。 曖昧な事実や説明が必要な事情がないかを整理します。

CHECK 4

裏付け資料

「要件を満たしています」と説明するだけではなく、 その事実をどの資料によって示すのかを確認します。

CHECK 5

リスクとなる事情

過去の処分、届出漏れ、変更事項、 説明を要する特殊事情など、 審査上問題となり得る事項を申請前に洗い出します。

「事実」と「証拠」を申請前からセットで考える

第5回では、 審査請求書について 「主張・事実・証拠」を整理する重要性を取り上げました。

実はこの考え方は、 審査請求の段階だけで必要になるものではありません。

1

要件を確認する

何を満たせば許認可等を受けられるのかを確認します。

2

事実を整理する

申請者がその要件に関して どのような事実関係にあるのかを整理します。

3

資料で裏付ける

その事実を行政庁が確認できるよう、 客観的な資料を準備します。

4

申請書全体の整合性を確認する

申請書、添付資料、説明内容の間に 矛盾がないかを確認します。

不許可後に初めて証拠を探すのではなく、 申請段階から「この事実を何で証明するのか」を考える。

これが予防的な申請実務の基本の一つです。

行政庁とのやり取りを記録する

許認可申請では、 書面だけで手続が完結するとは限りません。

電話で確認したり、 窓口で説明を受けたり、 補足資料の提出を求められたりすることがあります。

こうした場合には、 少なくとも、

  • いつ
  • どの行政機関の
  • 誰と
  • 何について話したのか
  • どのような説明を受けたのか
  • こちらは何を説明したのか
  • 何の資料をいつ提出したのか

といった事項を記録しておくことが、 後の事実確認に役立ちます。

「担当者がこう言った」という記憶だけに頼らない。

行政庁とのやり取りについて、 日付・内容・提出資料などを記録として残すことは、 申請管理という意味でも重要です。

補正を求められたときこそ、理由を確認する

行政手続法第7条では、 行政庁は申請が事務所に到達したときは 遅滞なく審査を開始し、 形式上の要件に適合しない申請については、 速やかに相当の期間を定めて補正を求めるか、 求められた許認可等を拒否しなければならないとされています。

補正を求められた場合には、 単に言われた資料を追加するだけでなく、

  • 何が不足しているのか
  • どの要件との関係で必要なのか
  • 既に提出した資料ではなぜ足りないのか
  • 追加資料によって何を確認しようとしているのか

を整理することが、 申請全体を見直すきっかけになります。

不許可の「理由」は次の判断の出発点になる

十分に準備して申請しても、 結果として不許可となる場合はあります。

そのとき重要なのが、 本シリーズ第2回でも取り上げた 「理由の提示」 です。

行政手続法第8条は、 申請により求められた許認可等を拒否する場合、 原則として申請者に同時に理由を示すことを求めています。

不許可になったとき、 最初から「行政の判断はおかしい」と決めつけるのではなく、 まず示された理由を正確に読みます。

そのうえで、 再申請で対応できる問題なのか、 それとも処分そのものの見直しを求めるべき問題なのか を検討することが重要です。

「予防」と「権利救済」は別々ではない

このシリーズでは、 行政不服申立てを中心に解説してきました。

しかし、 申請前の準備と不服申立ては 完全に切り離されたものではありません。

1

申請前

法令・審査基準・事実・証拠を確認する。

2

申請・審査

行政庁とのやり取りや提出資料を適切に管理する。

3

処分

不許可等の場合は、処分理由と根拠を確認する。

4

対応方針を検討

再申請、審査請求その他の手段を、 個別事情に応じて検討する。

5

権利救済

必要な場合には、 法律上認められた手続によって処分の見直しを求める。

申請段階から事実と証拠を整理しておけば、 万一不許可等となった場合にも、 「何が問題となったのか」を検証しやすくなります。

特定行政書士だからこそ「処分後」だけを見ない

特定行政書士は、 法律で認められた範囲において、 許認可等に関する行政不服申立ての代理等を行うことができます。

しかし、 私がこのシリーズを通じて伝えたかったのは、 「不許可になったら特定行政書士へ」 ということだけではありません。

不服申立てを扱う視点を持っているからこそ、 「この申請がもし不許可になったとき、 どこが争点になるのか」 を申請段階から考えることができます。

要件を確認する。 事実を整理する。 証拠を確認する。 行政庁とのやり取りを記録する。

こうした一つひとつの積み重ねが、 許認可実務におけるリスク管理につながります。

全10回を振り返る

「行政不服申立て」実務ガイド 全10回
  1. 許認可が「不許可」になったらどうする?
    行政不服申立ての概要と特定行政書士
  2. 「不許可通知書」が届いたら最初に確認すべきこと
    理由提示を確認する
  3. 審査請求ができる案件・できない案件
    特定行政書士が代理できる範囲
  4. 審査請求には期限がある
    「3か月」のルールと手続全体
  5. 説得力のある審査請求書とは
    主張・事実・証拠をどう組み立てるか
  6. 行政庁の弁明にどう対応する?
    弁明書・反論書・口頭意見陳述
  7. 営業停止・許可取消しによる重大な不利益に備える
    執行停止の要件と実務
  8. 不利益処分にどう備えるか
    行政裁量の限界と聴聞・弁明の機会
  9. 行政不服申立てと行政訴訟
    それぞれの役割と選択のポイント
  10. 不許可リスクを減らすために
    申請前から始める予防的実務支援
特定行政書士TIBIの視点

全10回を終えて

「争うため」ではなく、
適正な行政手続と権利利益を守るために

行政不服申立てという言葉には、 どうしても 「行政と争う」 という印象がつきまといます。

しかし、 この制度の目的は、 行政と対立することそのものではありません。

行政庁の処分について、 違法または不当な点があると考える場合に、 法律に基づく手続によって その見直しを求める。

それは、 法律が用意している正式な権利救済の仕組みです。

不許可になってから考えるのではなく、
申請する前から考える。

それでも処分に疑問があれば、
感情ではなく、事実・証拠・法律で検証する。

私は、 これが許認可業務と行政不服申立てを 一つの流れとして捉える意味だと考えています。

特定行政書士として重要なのは、 審査請求書を書くことだけではありません。

申請の段階から、 行政庁が何を審査するのか、 どの事実が重要なのか、 それを何によって証明するのかを考える。

そして、 万一不許可等の処分を受けた場合には、 その理由を冷静に分析し、 再申請なのか、 行政不服申立てなのか、 あるいは弁護士との連携が必要なのかを見極める。

「申請」と「権利救済」を分断しない。

それが、 特定行政書士として私が目指したい 実務のあり方です。

全10回をお読みいただき、ありがとうございました

本シリーズでは、 行政不服申立てという、 一般にはまだ十分知られているとはいえない制度を、 事業者の実務という視点から取り上げてきました。

許認可を必要とする事業では、 行政との関係は申請時だけで終わるものではありません。

不許可、 更新、 営業停止、 許可取消しなど、 事業の継続に大きな影響を与える行政判断に 直面する可能性があります。

そのとき、 「行政が決めたのだから仕方がない」 と考える前に、 法律上どのような手続と権利があるのかを 確認していただきたいと思います。

行政手続を知ることは、
事業と権利利益を守るための第一歩です。

法的根拠(第10回の主な条文)

行政手続法第5条
審査基準の設定、具体化および公表
行政手続法第6条
標準処理期間
行政手続法第7条
申請到達後の審査開始、 形式上の要件に適合しない申請への補正等
行政手続法第8条
申請により求められた許認可等を拒否する場合の理由提示
行政手続法第12条
不利益処分に関する処分基準
行政手続法第13条・第14条
不利益処分に先立つ意見陳述手続と理由提示
行政不服審査法第1条
違法または不当な処分等について、 簡易迅速かつ公正な手続による権利利益の救済を図る制度目的
行政不服審査法第18条
処分についての審査請求期間
行政書士法第1条の4第1項第2号・同条第2項
特定行政書士による、 法律で認められた範囲の行政不服申立手続の代理等